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プログラミング、3DCGとその他いろいろについて

数学的宇宙仮説が正しければニュートン力学はほとんど不可能か?

「数式で表せるすべての宇宙は実在する」とする数学的宇宙仮説が正しければ、量子力学や相対性理論が支配する我々の宇宙だけではなく、ニュートン力学が本当の物理法則である宇宙も実在するはずです。しかし私たちの宇宙はそれではありません。なぜでしょう?


我々はシミュレーションか?

我々の宇宙の物理法則がニュートン力学ではない理由について考える前に、私たちがシミュレーションかもしれないとする昨今の哲学的議論について復習してみましょう。

哲学者のニック・ボストロムは我々がシミュレーションである可能性が高いということを示唆しています。高度に発達した文明は好奇心や娯楽から意識のシミュレーションを大量に作り出すかもしれません。そのシミュレーションの数が十分に多ければ、その中にはあなたの意識と完全に一致するものも含まれるでしょう。ここで考えてみてほしいのですが、もしあなたとあなたのシミュレーションが一人ずつこの宇宙に存在するとしたら、あなたが本物のあなたである確率は何でしょう?あなたは自分は本物に決まっていると思うかもしれませんが、それはシミュレーションの方も同じです。つまりあなたが本物である確率は1/2です。もしあなたのシミュレーションが10人作られていたとしたら、あなたが本物である確率は1/11です。

断っておきたいのですが、私がこれからこの考え方を結びつける数学的宇宙仮説の提唱者であるマックス・テグマークさんはこの考え方を不条理だとしています。なぜなら、あなたがシミュレーションである場合だけでなく、あなたがシミュレーション世界中のシミュレーションである可能性や、あなたがシミュレーションのシミュレーションのシミュレーションの…となってきりがなくなってしまうからです。

しかし私が思うに、それは私たちがほぼ間違いなくシミュレーションであるという証明でしかありません。つまり、可能性は

  1. 私は本物
  2. 私はシミュレーション
  3. 私はシミュレーションのシミュレーション
  4. 私はシミュレーションのシミュレーションのシミュレーション…

…と無限にあり得る(そのすべては数学的宇宙仮説が正しければ実在する)のですが、その中で私たちが「本物」であるケースは一つしかありません(*)。私たちが「本物」である確率は1/∞=0です。

(*)シミュレーションの中のシミュレーションの中の…と繰り返すのはあまりにたくさんの計算資源を必要とするため不可能だと思うかもしれませんが、別の計算資源の豊富な宇宙でシミュレートされていると考えれば無理はありません(そのような宇宙も数学的宇宙仮説によれば実在します)。その宇宙のコンピュータはあまりにも高性能なため、宇宙を一つや二つシミュレートするなどどうということはないのです。

ニュートン力学は別の法則によってシミュレートされなければならない

ではニュートン力学について考えてみましょう。ニュートン力学はシンプルであり、物理学の初心者が学ぶのはここからです。しかし不幸にも、これは近似であり、現実はニュートン力学に従わない現象であふれています。どうしてこんなことになってしまったのでしょう?数学的宇宙仮説ではニュートン力学が本物の物理法則である宇宙も存在するはずなのに。

私が思うに、これは我々が100%シミュレーションであるという論法の応用によって説明できます。我々が100%シミュレーションであるのと同様、ニュートン力学も100%別の何かによってシミュレートされているのです(*)。つまり、可能性は

  1. ニュートン力学は本物
  2. ニュートン力学は近似
  3. ニュートン力学は近似の近似
  4. ニュートン力学は近似の近似の近似…

…と無限にあるのですが、その中でニュートン力学が「本物」の物理法則であるケースは一つしかありません。ニュートン力学が何か別の法則の近似であるというのはほとんど不可避なのです。

ニュートン力学は相対性理論や量子力学の近似に過ぎないということがわかっていますが、それらもやがて何かの近似に過ぎないということがわかります。そしてそれもやがて何かの近似に過ぎないということが…と無限に続くわけです。

(*)厳密にいうと、シミュレーションが完璧なら自分がシミュレーションであることに気づくことはありません。そういう意味で「私はシミュレーション」と「ニュートン力学は近似」は違うとも言えます。「ニュートン力学は本物」というのは、「ニュートン力学は別の法則によって破綻なく完璧にシミュレートされている」ケースも含むべきでしょう。もちろん、「ニュートン力学は別の法則によって完璧にシミュレートされていて、その法則も別の法則によって完璧にシミュレートされている」も含みます。ただ、そういったケースは不完全なシミュレーションよりもまれなのではないかと思います。完璧なものは不完全なものより数が少ないだろうからです。ただし、この議論があやふやであることは認めます。

これは悪いことか?

一見、「永遠に真の物理法則にたどり着けない」というのは悪いニュースであるように思えます。あたかも科学者は何をしても無駄だと言っているかのようです。

しかし私はこれを良い知らせとして解釈したいと思います。これが意味するのは、現時点で判明している物理法則で出来ないとされることがあっても、さらに研究を続ければ現時点の理論にほころびが見つかり、さらに厳密な理論の下では可能となるかもしれないからです(核融合も量子コンピュータもニュートン力学が正しければ不可能です)。

世の中が問題だらけで閉塞感が漂っていても、新たに登場した科学理論が突拍子もないことを可能にし、それがすべてを都合よく解決してしまうという可能性が、常にあるということなのです。

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