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プログラミング、3DCGとその他いろいろについて

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炎は遺伝子を持った生命体

はじめに

「炎は生命体か?」という古くからの問いがあります。
炎は燃料と酸素を取り込んで燃やす代謝を行い、燃え広がることによって自己複製を行います。
これはまさに生命体の定義を満たしているではないか!というわけです。

教科書的な説明は、「炎には子孫に伝える遺伝子がない。だから生命ではない」というものです。
しかし本当にそうでしょうか?
どうもこれは、「炎は生命ではない」という結論に無理やり持って行こうとして論理が破綻している感じがあります。
分別のある人なら、誰でも炎は自分の子孫に伝える情報を持っている事がわかるはずです。
それはもちろん、炎の持つ位置です。


生命の定義

生命の定義として最も重視される要素の1つが自己複製能力です。
これはなぜかというと、自己複製能力は進化を可能にするからです。

自己複製と進化

ダーウィンの自然淘汰は自己複製が動力源で、自己複製し、その際にコピーされる情報に突然変異が起きるのなら、どんなものでも進化が起こります。
人工的に進化を再現するプログラムは人工生命と呼ばれる研究分野の一ジャンルです。
進化するには別に有機物で出来ている必要はなく、他のどんな物質であろうと、自己複製+突然変異の条件をみたすのなら進化が可能です。

地球外生命体がいたとして、彼らは地球の生物と同じ物質で出来ている必要はありません。
自己複製と突然変異ができれば、進化が出来るからです。
物理学が示唆するように私達の宇宙とは違う物理法則を持つ宇宙があったとしても、そこでもやはり進化は起こりえます。
自然淘汰が起きるか起きないかは単純に、自己複製とその際の突然変異という機能にのみ依存するからです。
そういう意味で、自己複製という生命らしさは、特定の物理法則に依存しない、やや数学的な一般性を持った性質といえるでしょう。

自己複製による目的の創発

というわけで、生命らしさを考えるときに自己複製能力は重要視されるわけです。
自己複製能力があり進化が起きるのなら、自然と環境に適応する能力も手に入ります。
目の前に餌があるならそれを食べに行き、毒とか捕食者から逃げる能力は、自己複製能力を持っていることの直接的な結果です。
生命らしいと考えられる機能は自己複製能力が生み出すのなら、生命の定義に自己複製能力を含めるのは極めて自然な発想です。

生命がものを食べたり逃げたり縄張り争いをする時、それが自己複製能力の産物だというのなら、「○○を食べる」とか「□□色のものから逃げる」とか「△△な形をしたものを攻撃する」ということを生命の定義とするより、自己複製能力一本に絞って定義にしたほうがマシです。
目的と呼べる機能は、自己複製能力からすぐに生み出されるのです。
ニューラルネットワークで学習をするとあらかじめプログラムされていない現実世界の具体的な概念に対応するニューロンが自然と創発することがあるように、自然淘汰自体には目的と呼べる概念は含まれていませんが、その産物は目的を持った機械となりえます。

というわけで、将来別の星で生命らしい行動をする物体が見つかったら、それが自己複製している可能性は高い、と言えるくらい自己複製は生命にとって重要な要素です。
しかしここで古くからある疑問が浮かびます。
この定義だと、炎は生命体ではないでしょうか?

炎の持つ生命らしさ

多くの人は炎は生命だとは思っていないようです。

比喩表現として炎は生きていると言ったり、生命を火になぞらえることはあることはあるかもしれませんが、当人たちはそれをあくまで比喩だと思い込んでいます。
しかしよく考えてみると、炎は実際に生命の定義を満たしており、実際に生命体なのです。

1.自己複製

炎は燃え広がる。
最初は手のひらより小さかった火種が、燎原の火になりうる。

2.代謝

炎は燃料と大気中の酸素を消費し、自分自身を形作る。
これは炎にとっての食事以外の何物でもない。

教科書的な反論

これに対する最もありふれた反論は、「炎は自分が生み出す炎に情報を伝えることはない。複製される情報がないのなら、自然淘汰は起こりえない。(よって炎は進化せず、生命らしい振る舞いも生まれない)」というものです。
しかしバーナード・ショーのように一週間に1、2回でもものを考える事ができる人なら、すぐにこの理由は実際には何の理由にもなっていないということが分かるでしょう!
炎は自分の生み出す炎に情報を伝えています。
それは位置です。
炎は必ず自分の近くに新たな炎を生み出します。
ブラジルの炎が次の瞬間いきなりテキサスに新たな炎を生み出すことは決してありません。
というわけで、明らかに炎は子孫に情報を伝えており、炎は遺伝子を持っているのです。

炎の遺伝子

炎の遺伝子は炎の位置情報です。
哺乳類が自分の塩基配列を、突然変異というエラーも込みで子孫につたえるのとおなじように、炎は自分の位置情報を、完全に自分と同じではないにせよ似た位置につぎの炎を作り出すことによって、子孫に伝えているのです。
「子孫を完全に自分と位置に作るのではない」ことは突然変異に対応しており、炎の自然淘汰が可能になります。

言うまでもなく「位置は炎が保存している情報ではなく、炎と地球の相対位置が持つ関係性だ」という反論は的はずれです。
私達のゲノムは大量のATGC一つ一つが持つ他の幾つかの塩基に対する相対位置によってコードされており、しかもそれの意味は細胞だけでなく地球上の他の生命や自然現象があって初めて意味を成すものです。
関係性以外によってコードされる遺伝子などそもそもこの世に存在しません。

炎の進化

では炎はどのような進化をするのでしょうか?
その前に炎の遺伝型と表現型をはっきりさせておきましょう。
炎の遺伝型は炎が存在する位置です。
炎の表現型は炎の強さです。

炎の発生過程

自然環境では炎の餌になる燃料はある程度まとまって存在します。
山に木はたくさんありますが、平原には草が生えているだけですし、川や海には燃料が全くありません。
というわけで、炎の存在する場所によって炎の強さが変わることがわかります。
山では炎は強くなるでしょうが、草原ではやや弱く、水の溜まっている場所では0になります。

遺伝型 ー(発生)→ 表現型
炎の位置 ー(発生)→ 炎の強さ

炎の自己複製

炎は常に、たち消える危険性があります。
子供の頃火遊びをしたことのある人なら、炎を燃え広がらせようと思って草に火をつけても、燃え広がる前に消えてしまいストレスを感じたことがあるでしょう。
ある程度の強さがあって始めて、炎は大きな自己複製能力を持つのです。

これはつまり、炎の強さ(表現型)が、その炎の子孫の数(適応度)を増やすということを意味しています。
もうおわかりでしょう。
草原に放った火の勢いがどんどん増していくのは、自然淘汰の結果です。
燃えやすい場所へ広がった炎はさらに勢いを増します。
コンセントの火花が家を焼くほどの大火事に発展する時、実際には私たちは炎の進化を目の当たりにしているのです。

炎の排他原理

さて、ここまでの話を聞いて、この話に大きな疑念を抱いた人もいると思います。
私たちには一卵性双生児がいます。
彼らは同じ遺伝子を持ったクローンです。
炎で同じ現象が起きるのでしょうか?
同じ場所に炎がすでにあると、新たな炎がそこに生まれない気がしませんか?

それに、炎は一度その場所の燃料を燃やし尽くすと、そこに新たに炎が生まれることはありません。
これは一見したところ、炎と私達との間に大きな違いがあることを示唆しているように見えます。
しかし、実はこれは本質的な違いではないのです。

実は、他の個体が存在することによって、自分の残せる子供の数が変わる、というのは私達もそうです。
もしじゃんけん(のような三すくみ状態の行動)をする種が存在したとすると、パーを出す個体の数はチョキを出す個体の数に阻害されます。
まあじゃんけんそのもので個体数を決める生物種はいないと思いますが、話は同じです。
いわゆる頻度依存淘汰ですね。
炎の場合は、すでにその遺伝子の炎が存在していることによって、全く同じ遺伝子の個体の存在は阻害される、というだけです

逆に、全く同じ遺伝子でも炎の誕生が促進されることにることも無いことはありません。
たとえば、低い温度では引火しない燃料があった時は、単独の場合より燃え広がり、それを複数の個体が1か所に存在していると解釈することも可能です。
いずれにせよ、すでに存在している個体に新しく生まれる個体が影響されるのは私達だってそうなのです。

炎が生きていないなどというのは、自文化中心的な偏見に過ぎません。

もちろん、「炎」というより「炎がその場所に存在した痕跡」が生命なのだと解釈したほうが死者の影響を考えなくていいので綺麗かもしれませんが。

含意

このことは、生命の定義として自己複製能力を考慮する際には、注意しなければならないということを意味しています。
何かの自己複製能力を考えること自体は自然な発想ですが、人間の思い込みや偏見のせいで何が遺伝子を持ち自己複製し進化しているのかということが分からない可能性があるのです。
別の星の探査を行う時、遺伝子を持ち自己複製する生命を目の当たりにしておきながら、偏った思考に引きずられて「これは自己複製してはいるが、遺伝子を持っていないので生命ではない」などと言う可能性があるということです。
自己複製能力に注目するのは最も「まし」ではありますが、足を踏み外さないように常に気をつけなければなりません。

実際、私達が炎を生物ではないと思い込んでいたのは、タイムスケールの違いが原因です。
炎の進化は私達の意識と比べてあまりに速く進行し、あまりに早く絶滅し終わってしまうので、それが生命ではないという思い込みがあまりにも強化されてしまったのです。

ありきたりな議論ではありますが、たぶん、私達より意識がゆっくりと流れる生物がいたとしたら、私たちが生物であるということはすぐにはわからないでしょう。
注意深く、一つの現象を様々な視点から解釈し検討して、初めて私達が生物だと分かるでしょう。
そして、炎が生物でないなどと思い込んでいた私たちに彼らを笑う資格はありません。
幸い、今の宇宙の年齢を考えると、そのような生物は少なくとも今はまだ生まれてはいないでしょうが。

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