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プログラミング、3DCGとその他いろいろについて

古典的経路を足すことによってタイムトラベルをシミュレートする

通常、物理学者が(遊び半分で)タイムパラドックスについて考える時、タイムパラドックスの起きる歴史を引き算して確率を考えます。ここでは逆に、(同じことですが)パラドックスの起きない歴史を割増しすることで確率を計算してみましょう。


ノヴィコフの首尾一貫の原則

もし過去に戻って自分のおじいさんを殺したらどうなるでしょう?するとあなたは生まれないことになり、過去に戻って自分のおじいさんを殺すことも出来ません。するとあなたは生まれることになり、過去に戻って自分のおじいさんを殺すのです。するとあなたは生まれないことになり…

過去へのタイムトラベルは、このように、パラドックスを容易に引き起こします。物理学者がこのようなパラドックスを解決するのに使う考え方の一つが、ノヴィコフの首尾一貫の原則で、「そもそもおじいさんを殺すことなど出来ないのだ」というものです。

これは、ありとあらゆる古典的経路を考え、そのうちタイムパラドックスを引き起こす経路を無視します。次の図は、この話をランダムウォークで考えた図です。もし未来から「ランダムウォークは真ん中にたどり着くぞ」というメッセージがやってきたとしたら、両端にたどり着く未来は無視していいのです。

非常に面白いことに、このようにして計算すると、確率がねじ曲がります。おじいさんの眉間に向けて撃った弾は、量子力学的奇跡によって外れるのです。

経路を足すことによって確率を計算する

同じことですが、タイムパラドックスの起きない経路を何度も足すことによって確率を計算することも出来ます。おじいさんから弾がそれる歴史を無限に足してやれば、頭を撃ち抜く確率は薄まり0になるでしょう。

計算結果が同じになるのになぜこんなことをするのだと思われるかもしれませんが、不気味なことに、これはわたしたちの日常の行動を上手く説明してくれるのです。

この考え方をランダムウォークでシミュレートしてみます。

パラドックスのない経路を足すシミュレーション

操作方法

一番上の段のいずれかの○をクリック:未来にランダムウォークが到着するセル(◎)を設定します。

new historyボタン:ランダムウォークを動かします。何度もこのボタンを押すと、タイムパラドックスを起こさない経路が太くなっていきます。何度もボタンを押すのが面倒なら、キーボードの[Enter]キーを押し続けてください。

解説

このシミュレーションはタイムパラドックスの起きないランダムウォークの経路を作り出します。はじめは普通のランダムウォークの経路(真ん中をたくさん通り、外側はあまり通らない)が表示されています。線の上に表示されている数字は、その線を通る経路の数です。

new historyボタンを押すと、ランダムウォークが行われ、タイムパラドックスがおきない経路のときだけ記録され、線が太くなります。ボタンを何度も押すと(あるいはキーボードの[Enter]キーを押しっぱなしにすると)、描かれる経路は時間逆転ランダムウォークに近づいていきます。広がり集まるパターンです。

日常の行動とのアナロジー

これはタイムトラベルのシミュレーションですが、わたしたちが普段何かを練習して技能を身につける時、これと全く同じことをしていることがわかります。自転車の乗り方を覚える時、わたしたちは何度も失敗して、上手くいったときの行動を繰り返すことによって自転車に乗れるようになるのです。実のところ、わたしたちの技能はすべて望んだ未来を現実にするためにあり、それは数学的にこのシミュレーションと同じなのです。

ギャンブル中毒

このシミュレーションから、なぜ冴えないギャンブラーが負けたときのことを覚えていないのかが説明できます。負けたときのことを覚えていたら、パラドックスのない経路が手に入らないからです。わたしたちがほしいのは、目的の未来に導いてくれる経路です。だから都合よく、上手く行ったときのことしか覚えないのです。

ただし、これはギャンブルのように完全にランダムなものには通用しません。あくまで、自分がうまく行動することによって未来の確率を変えられる物事にしか通用しないのです。どんなに念じてもコインの表裏を望みのままに出すことは出来ません。わたしたちは超能力者ではないのです。

突然うまくなる

このシミュレーションは、失敗を何度も繰り返します。実のところ、一回一回のランダムウォークは、確率が曲がっていない普通のランダムウォークです。その中から上手く行ったものだけを記録しているだけで、決して魔法のように毎回成功するわけではありません。

つまり、これは「反復練習」のシミュレーションなのです。練習を何度も繰り返しているのに、練習前と比べて進歩がないのです。しかしその進歩の無さはあながち悪いわけではありません。実は、正確な経路の計算をするためには、この「物分りの悪さ」が必須なのです。次のシミュレーションは、練習の成果を直ちに反映させるようにした「物分りの良い」プログラムです:

学習結果が直ちに反映される「物分りの良い」シミュレーション

ボタンを何度も押すとわかりますが、この「物分りの良い」プログラムは、計算結果が偏ったものになります。つまり、最初に上手く行った方法に固執する傾向があるのです(さっきのシミュレーションと比べると、経路がせまい範囲に集中していることがわかるでしょう)。まあ…このプログラムが学校の生徒なら、すばやく「良い」行動をするようになるので、成績はよくなるでしょう。

しかしこれは必ずしも良いことではありません。タイムトラベルのシミュレーションとしては計算結果が間違っていますし、子供の学習のアナロジーという点から言っても、他の良い技能を身につけようとしなくなります。

それに、ある程度学習が進んでから歪みが表面化する可能性があります。つまり、この「物分りの良い」やり方は確率のねじ曲げを僅かな数の経路に押し込めるのですが、ねじ曲げによって別の技能が壊れかねません。日本人には読めないアルファベットのフォントというのがありますが、あれはそのデザインが日本の文字に似ているため、日本語に慣れた人には意味不明な文字列に見えるのです。必要以上にある特定の物事に慣れると別のことができなくなります。幅広い経路に慣れていなければいけません。

というわけで、はじめは「物分りが悪い」状態で学習し、ある時突然学習結果を行動に反映させるようにする(突然うまくなる)と、歪みや偏りが少なくなるのです。合理的です!

三つ子の魂

とはいえ、まだ経験が浅い時には、学習結果を妨げるだけの経験(通常のランダムウォークの経路に相当)がそもそも存在しないので、先程の「物分りの良い」プログラムのようになりやすいでしょう。子供は大人よりすばやく物事を覚えるのです。それと同時に、そのときに覚えたものに固執しやすいというわけです。

なぜアナロジーが成立するのか?

タイムトラベルの話をしていたのに、なぜ人の行動の話になってしまったのでしょうか?実のところ、これは物理学者ヤキール・アハラノフの2状態ベクトル形式について考えるとおかしなことではありません。アハラノフは生物の進化や自由意志が宇宙の最終状態(未来)に影響されていると考えています。つまりこのページに書かれていることは、彼の考えを別の角度から見ているだけだとも言えるわけです。

まとめ

タイムトラベルの計算をする時、ふつうパラドックスのある経路を取り除くことで確率を計算しますが、逆にパラドックスのない経路を水増しすることで計算すると、わたしたちが日々行っている行動をよく説明できます。

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