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プログラミング、3DCGとその他いろいろについて

安定して奇跡を起こす

コインが100回連続表になる確率はとても低いため、もしそれが起こったとしたら奇跡だと言っていいでしょう。しかしこれには人為的に引き起こすことが可能です。おもり入りのイカサマコインを使えばよいのです。奇跡は起こすものなのです。


ポテンシャルエネルギーを利用して奇跡を起こす

高いところにある物体はまず間違いなく下に落ちます。高いところのポテンシャルエネルギーは高く、下は低いので、リンゴは落ちるわけです。では、もし重力がなかったらどうでしょう?リンゴがどこへ行くかは予言が難しいはずです。ランダムにぶつかってきた宇宙塵でどちらに行くかさっぱりわかりません。そのような状況では、リンゴが常に下に加速し続けるというのは、極めて確率の低い奇跡だといえます。つまり、重力は、それがなければ奇跡であるはずの現象を、いともたやすく起こしてみせるのです。

これは重力に限った話ではありません。バネでも静電気でも磁力でも、なんであろうとポテンシャルエネルギーを考えることが出来るのなら、それは奇跡を起こすことが可能です。厳密には、それがなければ観測者が奇跡とみなしたであろう現象、ですが。机の上においたおもりがある方向に動くというのは、空気中の大量の分子が重りに一方向からぶつかる奇跡が起きなければありえませんが、バネや磁石を使えばかんたんです。物体はポテンシャルエネルギーの高いところを嫌い、低いところへ逃げるので、ありえないはずの現象の確率を大きく高めるのです。

これはある意味、「ランダムに変化するコインの表裏エントロピーは小さく出来る。手でコインをつまんで全部表にしてしまえばいいのだ」という話と似ています。結局、外部のエネルギーを消費すれば、ありえないはずの現象も無理やり起こすことができます。そのかわり、別の場所であなたの制御下にない現象は増えます。指を動かした筋肉のエネルギーは熱へと変わり、あなたの周りの空気分子の位置や速度の予測不可能性を大きくするのです。ある場所を予測可能にしたら(コインは全部表だ!)、それ以上に別の場所は予測不可能になります(空気分子の状態はわからない…)。でもまあ、空気分子の予測不可能性が多少増えたところで、ギャンブルで一攫千金できるのなら、気にしない人のほうが多いでしょう。

応用例

このテクニックは、いろいろなところで使われています。

川:雨水の行方を予測可能にします。川底は川岸より低い場所にあるため、水はそこをながれていきます。もし地球がつるつるの完全な球体だったとしたら、そこに水を垂らすと散らばり、水分子はどこに行くか予測が難しいでしょう。

電車のレール:電車の動きを予測可能にします。電車をレールから外すには、電車を少し持ち上げる(重力によるポテンシャルエネルギーを上げる)必要があり、外れにくいのです。その証拠に、レールのない自動車の動きは予測が難しいのです。

水道管:水道管の中の水が外へ染み出るには、管を貫通しなくてはいけないのですが、管のポテンシャルエネルギーはとても高いので、そんなことはほぼ不可能です。水はおとなしく、水道管の中をあなたの家の蛇口まで流れたほうがいいのです。

ケーブルの絶縁体:ケーブルを流れる電子の動きを予測可能にします。空気は絶縁体なので、これがなくても、少なくとも海中の電子の動きよりは、予測可能なはずです。しかし人が触れたときに人の方に流れるかもしれないので、絶縁体を巻きます。こうすれば人が触ろうと水をかけようと電子の未来は1つであり、予測可能性が高まります。ハサミで切ったりされると困りますが…。

これらの例は、すべて流れを作り出します。人が「流れがある」と言う時、それは直前の状態から今を予測しやすいということですから、川底やレールのような溝があるというのは理にかなった話です。水道管やケーブルの絶縁体は溝には見えませんが、次元が1つ上がった溝のようなものとみなせます。

溝とは何でしょう?それはたぶん、安定して奇跡を起こせるしかけです。水道管がなければ、きれいな水があなたの家までやって来る可能性はとても低いはずです(仮にやってくるとしたら、たぶん量子論的奇跡によって、水の分子があなたの家までテレポートしてくるのでしょう)。周囲をポテンシャルエネルギーの高い領域で囲ってしまえば、物体は低いところ(つまり溝)を通ってくれるというわけです。

面白いことに、晴れの日は道路の溝には水が流れていません。奇跡を起こすしかけは、奇跡が起きていない時も存在していていいのです。もし異星人が地球にやってきたら、その日がちょうど良い天気だったとしても、道路の溝の役割を予測できるでしょう。そして、まだ一度も見たことのない雨水の動きを予測できるでしょう。

こうなる理由は、溝は動かないからです。川を流れる雨水は時間とともに動いていますが、溝はロボットのように変形したりしません。実のところこれは当たり前で、安定して奇跡を起こすためには、動いていてはいけないのです。メチャクチャに動いたりしたら、安定しているとは言えません。安定して奇跡を起こすためには、奇跡を起こす必要が無い時も、その時と同じような状態を取るくらい形が安定していると都合がいいはずです。雨がふるときだけ道路がガシャガシャ変形して溝ができるなんて仕掛けが頑丈だとは思えません。

これは何を意味しているのでしょう?それは、安定して奇跡が起きる時、その時間的な影響範囲はかなり広いということです。地質学者が太古の川の跡を見つけた時、彼らは太古の水の流れもおおよそ予測できます。つまり、太古の水分子に起きた奇跡の影響は、その場だけでなく、現在のホモ・サピエンスの脳の状態にも伝わるのです。太古の水分子が本当に偶然、奇跡的な動きをしたとしても現在まで残る影響はほとんど無いでしょうが、川によってイカサマ的に「奇跡」を起こし続けていたとしたら、その影響はかなり後まで残ると言えなくもないわけです。

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