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プログラミング、3DCGとその他いろいろについて

デジタルと誤差修正

物理学者デイビッド・ドイッチュは、その著書『無限の始まり』の中で、デジタル形式は誤差修正がしやすいため、無限の可能性へつながるカギだと述べています。ここでは、その論理展開を私なりの方法で復習します。


アナログ形式は誤差に弱い

わたしたちの使っているコンピュータはアナログではなくデジタルです。これはどうしてかというと、アナログは誤差が生じるとそれを修正するのが難しいのに対し、デジタルは誤差の修正がかんたんだからです。

次のような状況を考えましょう。アナログコンピュータの中に、1.0という数字があったとして、その数字が外部からのノイズによって1.1になってしまったとします。そうすると、その数字を使ってするはずだった計算はすべてずれてしまい、誤った結果を出してしまいます。ところが、デジタルコンピュータなら、それを修正できます。もしすべての情報を、整数のような飛び飛びの値で保存していれば、「この1.1はたぶん1.0がずれてしまったんだろうな。だから1.0に戻してやろう」という事が可能です。アナログなら誤差が生じた時、それが正しい情報である可能性を排除できず誤差の修正がしにくいですが、デジタルなら誤差を修正できるのです。

デジタルは原理上情報を無限の時間保存できる

デジタルの良いところは、間違った時それを修正できる点です。エラー修正の仕組みをきちんと作れば情報を無限の未来に伝えることができます。いっぽう、アナログならエラーは蓄積していき、伝えられる限界が存在します。これこそが、音楽テープ(アナログ)のダビングがほとんど問題にならず、CD(デジタル)になってから著作権問題に発展した理由です。デジタルなら誤差修正するしかけをきちんと作っておけば、いくらでも劣化無しでコピーできるのです。

次の2つの図はアナログとデジタルのエラーの違いを表しています(2つめの図は、たくさんの例を一つの図にまとめたものです。エラーには偶然が関わるので、一つの例だけではよくわかりませんからね)。アナログは、どんどん無秩序状態になっていきますが、デジタルはある程度までのエラーなら、もとに戻せるのです。

デジタルには、もとに戻るべき値(普通のコンピュータは0か1です)というのが設定されていて、そこからずれるとどちらか近い方に押し込められます。こういう表現をすると、大切な情報を捨てることになってしまうんじゃないかと思われるかもしれませんが、実際に捨てているのは大切な情報ではなくエラーです。どんどんエラーがたまって信頼できる情報がなくなるよりは、多少情報を捨ててもこれだけは確かだという情報があったほうがいいわけです。

デジタルは無限の可能性へつながっている

これは、アナログ計算には限界があり、デジタル計算には無限の可能性があるということを意味しています。アナログの計算は、エラーが無視できるレベルの範囲の短い時間の計算(あるいはニューラルネットのようなエラーに強い構造にした特殊な計算)でしか信頼できる答えは出せませんが、デジタルなら、どんなに長い時間をかける計算でも、答えは信頼できます(たとえば円周率を求める計算は無限の時間がかかりますが、今までそれを計算した結果は信頼できるものです。コンピュータが故障しない限り、どんなに計算を続けても、誤差で計算結果が信頼できなくなったりはしないでしょう)。アナログには限界がありますが、デジタルの可能性は無限なのです。

ドイッチュ曰く、これこそが、どの言語も文字の数が限られている理由です。書いたアルファベットが多少崩れていても、26文字のどれかということはわかっているので、読むことができます。DNAも1塩基2ビットのデジタルメディアです。アナログメディア(細胞内の化学物質の濃度など)に遺伝情報を記録しようとしたら、誤差が溜まりに溜まってDNAより速く最初の情報は失われるでしょう。

よく、デジタルの情報記録媒体より石版のほうが長く情報を伝えることが出来るのではないかという言う人がいますが、デジタルの真骨頂は複製時のエラーを修正できるという点にあります。情報記録媒体自体の寿命はどうでもよく、媒体を使い捨てながらコピーを繰り返していくのが前提です。大切なのは、エラーを起こさないようにすることではなく、エラーが起きた時それを修正する力なのです。

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