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プログラミング、3DCGとその他いろいろについて

ラプラスの悪魔に宇宙内部からアクセスするのはタイムトラベルと同じ

ラプラスの悪魔とは、宇宙のすべてと物理法則について知っている存在で、その気になればどんな遠い未来も見ることができます。残念ながら現実世界には量子力学的なランダムさがあるのでこのような機械を作ることは不可能ですが、コンピュータの決定論的仮想世界の中でこのような存在を考えることには意義があります。というのも、それはタイムトラベルのシミュレーションと論理的に等価であり、タイムトラベルはとても人気がある面白いものなので、ラプラスの悪魔シミュレーションを映画化したら大ヒット間違いなしだからです。


ラプラスの悪魔はタイムマシン

今からおよそ200年前、数学者ピエール=シモン・ラプラスは、すべてを知っている存在について考えました。彼は無神論者だったのでこれは神ではなく数学的な概念です。つまり、どんなものも物理法則に従って動くので、今の全宇宙の状態と物理法則がわかっていれば、どんな遠い未来も計算することが出来るわけです。物理学によってリンゴを手から放した時地面に落ちる未来が分かるなら、原理上はもっと遠い未来だって分かるはずです。彼の次のように述べました:

もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり、その目には未来も(過去同様に)全て見えているであろう。

残念ながら、今のところ物理法則は確率的なものだと考えられていますから、この存在<ラプラスの悪魔>を実際に作ることはできません。「多分未来はこうなるかもしれない」程度のことしか言えないのです。

しかし、コンピュータのシミュレーション中でこのような存在を考えることはできます。シミュレーション世界の「物理法則」はプログラマが自在に設定できるので、現実世界で<ラプラスの悪魔>の存在を邪魔するルールをなくすことだってできます。そのような世界の中に意識を持ったプログラムを<ラプラスの悪魔>とともに入れれば、そのプログラムは自分の未来の情報を手に入れることができるでしょう。つまり、これはタイムトラベルのシミュレーションと等価なのです。

宇宙外部と内部

ここで注意すべきなのは、<ラプラスの悪魔>はタイムパラドックスを引き起こしがちだという点です。もし<ラプラスの悪魔>から「おまえは30分後に首をつる」と言われたら、鬱でない限り「今、ぼくは首をつりたいか?つりたくない。つりたくない者がつるわけない。」と強情になって、首吊りの原因になりかねない要素を避けるようになるでしょう。つまり、未来の情報が自分自身を否定してしまうのです。これはタイムマシンで過去のおじいさんを殺すのと同じ論理構造です。

<ラプラスの悪魔>によるタイムパラドックスを避ける最も手っ取り早い方法は、宇宙外部に<ラプラスの悪魔>を起き、単に宇宙をシミュレートする方法です。予知は宇宙内部の誰も知ることがないので、予知に逆らうものは出てきません。しかし…こんなことをしても何の意味もありません。「世界一のスーパーコンピュータで明日の天気をシミュレートしたものの、その結果を誰にも知らせない」なんて正気を疑いたくなります。天気予報は誰かに知らせて市民に傘を持たせてこそ意味があるのです。計算結果を誰にも教えないなら、何も計算していないのと同じです。

というわけで、<ラプラスの悪魔>を役立てるにはそれを宇宙内部のどこかに置かなければいけません。未来の情報を、宇宙外部の神のごときプログラマではなく、内部の人間が利用できなければいけないのです。この時の<ラプラスの悪魔>の行う計算は、宇宙外部にある<ラプラスの悪魔>のそれとは質が違います。宇宙内部の<ラプラスの悪魔>は、本質的にタイムトラベルのシミュレーションを行わなければいけません。つまり、自分自身を破壊しないような予言を計算しなければいけないのです。予言がそれ自体を現実化する自己成就予言が最も望ましいのです。

予言を伝えるべきでない時

ちなみに、「未来を予言された時その予言を避けるようなプログラムに、その未来を予言してやることはできない」というのは数学者アラン・チューリングによる停止性問題の決定不能性の証明の本質です。つまり、宇宙内部の<ラプラスの悪魔>は、場合によっては未来を計算できないこともあるのです。というか厳密に言うと、未来を計算すること自体は可能なのですが、それを他の何かに教えてはいけないときというのがあるのです。SF映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でDr.エメット・ブラウンが未来の情報を聞かないようにしていたのはこういうことだったのです!

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