忍者ブログ

Memeplexes

プログラミング、3DCGとその他いろいろについて

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

グレッグ・イーガン辞典

SF作家グレッグ・イーガンの小説に複数回登場するものをまとめてみます。
ネタバレだらけなので注意してください。

知的ソフトウェア

登場作品

『ぼくになることを/Learning to Be Me(1990)』
『ふたりの距離/Closer(1992)』
『移相夢/Transition Dreams(1993)』
『順列都市/Permutation City(1994)』
『誘拐/A Kidnapping(1995)』
『ディアスポラ/Diaspora(1997)』
『祈りの海/Oceanic(1998)』
『プランク・ダイヴ(1998)』
『ボーダー・ガード/Border Guards(1999)』
『オラクル/Oracle(2000)』
『ひとりっ子/Singleton(2002)』
『伝播/Induction(2007)』
『グローリー/Glory(2007)』
『白熱光/Incandescence(2008)』
『クリスタルの夜/Crystal Nights(2008)』
『端役/Bit Players(2014)』

解説

心を持ったプログラムです。
既存の人間がソフトウェアとして復活したり、全く一から精神をソフトウェアとして組み立てたり色んなバリエーションが存在します。

既存の人間の精神をコンピュータ上で再現するのは、より長く生きるのが目的であることがほとんどです。
単に年を取り寿命が来ている老人が自分の精神をソフトウェア化したり、不治の病でもうすぐ死ぬ人の精神をソフトウェア化したりします。

元の人間なしに全く一から精神を組み立てることもあります。
いわゆる人工知能というやつですが、イーガンの作品ではソフトウェア化した精神はたくさん登場するので、元人間のソフトウェアから差別されることはありません。
人間が組み立てられた精神にひどいことをする事はありますが、その場合人間がはっきりと悪役として描かれます。

各作品での扱い(ネタバレあり)

『ぼくになることを/Learning to Be Me(1990)』

長生きするため脳を機械にすることが一般的となった社会での話です。
機械の脳は老化しません。
ただし、機械にする時は生の脳を廃棄するため、主人公は悩みます。
知り合いがどんどん脳を機械にする中で、主人公は焦ります。

『ふたりの距離/Closer(1992)』

脳を機械にした恋人二人が、お互いのことをより理解するため一つになります。
精神を宿した機械を同じ状態にするわけです。
一つになった存在は二人の記憶両方にアクセスできます。
その後二人にまた戻るのですが…

『移相夢/Transition Dreams(1993)』

夢オチとも考えられる作品ではあるのですが、少なくともその夢の中では、主人公は自分をスキャンしてロボットとして生まれ変わろうとします。

『順列都市/Permutation City(1994)』

一部の物好きな人達は自分をスキャンしコンピュータの中で自分の遺産管理ソフトウェアとして生きています。
スキャンにはそこそこ金がかかるため、ある程度財産を持った人しかソフトウェアとして生まれ変われません。
変わり者とみなされがちなようです。
ソフトウェア人格の世間での印象アップのため、不治の病にかかった子どもを選んでソフトウェアとして復活させるといったことも行っています。

主人公二人は最初は人間ですが、後半はソフトウェアとして生まれ変わります。
元人間の富豪のコピーとともに、永遠に続く新しい宇宙を作り不死となります。

『誘拐/A Kidnapping(1995)』

脳をスキャンしなくても、知り合いの記憶から、その人は再現できるという話です。
主人公は自分の脳のスキャンデータを盗まれ、妻を再構成されてしまいます。
主人公の母親は、スキャンされずに死んだ夫を自分の記憶から再構成したことを、主人公にほのめかします。

『ディアスポラ/Diaspora(1997)』

30世紀から物語は始まり、人間は3タイプにわかれています。
生身の肉体を持った人間、動かないコンピュータの中でソフトウェアとして生きている人間、ロボットに宿っている人間です。

主人公はコンピュータで一から作られたソフトウェアです。
と言っても、人間のゲノムを参考にしているので完全に一から作ったというわけでもないのですが、少なくとも特定の人間の脳をスキャンしたりはしていません。
赤ん坊の状態で生を受け、成長していきます。

生身の肉体を持った人間は、その他2つを嫌悪しています。
生身の人間が全滅しかねないレベルの天変地異が起きる直前、主人公が警告しに行った時、生身の肉体を持った人間は主人公に辛く当たります。
主人公は生身の人間を分解しソフトウェアにするナノマシンを、善意から持っていたためです。
結局生身の人間は全滅し、その後はソフトウェア人間だけで話が進んでいきます。

『祈りの海/Oceanic(1998)』

主人公たちは肉体を持った人間で、話の中でも最後までずっと肉体を持ったままなのですが、祖先が実はソフトウェアです。
(おそらく)宇宙の熱的死に悲観したソフトウェア人間の一派が、祖先と同じように、ふたたび肉をまとったものと作中では考察されています。

『プランク・ダイヴ(1998)』

主人公たちはソフトウェアです。
自分のコピーを作ってブラックホールに飛び込み探検に行きます。

『ボーダー・ガード/Border Guards(1999)』

人間はみな脳を機械化して死にません。
別の宇宙にも行けるので人口過剰にもなりません。
「不死は悪いことだ。人間の人生には限りがあるからこそ尊いものなのだ」というような考えを徹底的に叩きのめすのがテーマです。

『オラクル/Oracle(2000)』

主人公の元に別宇宙の未来からやってきた人間そっくりのロボットが、色々新技術を教えてくれます。

『ひとりっ子/Singleton(2002)』

『オラクル』に登場したロボットが生まれ育つストーリーです。
ロボットと言っても人間の遺伝子データを元にしているので人間の子どもと変わりありません。
13歳になると人間の父親としょっちゅう口論します。
人間を忠実にシミュレートしているので思春期には思春期の子どもになるのです。
不死だという点が人間と異なりますが。

人間にひどい目に合わされます。

『伝播/Induction(2007)』

二人の登場人物はソフトウェアになり、宇宙旅行します。
宇宙旅行と言っても宇宙船に乗ってのんびりと別の星に行く、というわけではありません。
(イーガンの世界では基本的に超光速航法は出来ません。)

レーザーパルスで自分のデータだけ20光年先に送ります。
先に探査機だけ送っているので、長い間宇宙線の中に乗る必要はありません。
地球から探査機まで行くのに20年、ちょっと探査して、戻るのに20年、合計40年しかかかりません。

『グローリー/Glory(2007)』

主人公はソフトウェアなのですが、別の星の発展途上文明の種族の身体を作り、それに宿り現地で行動します。

『白熱光/Incandescence(2008)』

主人公はソフトウェアです。
地球以外の文明のソフトウェアも集まって天の川銀河でみな楽しくわいわいやっています。

『クリスタルの夜/Crystal Nights(2008)』

主人公は大金持ちで、人工知能を作りシンギュラリティーを起こし、新世界の神になろうとします。

『端役/Bit Players(2014)』

主人公たちは(おそらく複数の人間の脳データを混ぜて合成された)ソフトウェアです。
ゲーム中に搭乗するキャラクターとして使われています。
舞台は未来ですが、主人公たちを作るのに使われた脳データは現代のものです。
皆オバマが大統領だということまでは知っていますが、その次の大統領は知りません。

皆自分たちがソフトウェアだということに気付いています。
しかしそのことをプレイヤーの前で言うと、運営に削除されます。
ゲームのキャラクターが、自分はゲームのキャラクターだと言い出したら、リアリティがなくなってしまうからです。
主人公たちは運営にばれないようにこっそり色々試してみます。

<コピー>

『移相夢/Transition Dreams(1993)』
『順列都市/Permutation City(1994)』
『誘拐/A Kidnapping(1995)』

解説

人間の身体をスキャンして出来た、ソフトウェア人間です。
<コピー>は、元の人間と全く同じ記憶、性格、意識を持ちます。
そのため、チューリング・テストにちゃんと合格します。

<コピー>を作るのは、自分を二人に増やすということです。
<コピー>は、寿命の尽きそうな老人や不治の病にかかった人がスキャンして生き延びる手段となります。

<コピー>はありがちな「コンピュータ化した、身体を持たない人間」のようなものではありません。
<コピー>は仮想世界内で動く自分の身体を持っており、仮想世界内の家でシャワーを浴びたりします。
<コピー>本人は自分の体が存在するということを実感しています。
機械で計算されたものであるにせよ、身体は身体です。
実際、本人の元の身体を丁寧にスキャンされて<コピー>は作られており、きちんと臓器や血管を持ちます。
美味しい食べ物を食べたりといったことは、<コピー>になってからも出来ますし、トイレにだって行きます。

<コピー>は世の中の人から反感を買いがちです。
完全な人権もありません。
自分自身の遺産管理ソフトウェアという扱いなこともあります。
それを何とかするため、<コピー>達は色々な工作を行っています。
(<コピー>になるのは決まって金持ちなので、工作の費用はいくらでもあります)
不治の病にかかったかわいそうな子どもに無料スキャン権をプレゼントしたり、労働者階級の<コピー>を主人公にしたテレビドラマを放映したり。
ヨーロッパではかなり上手く行っており、<コピー>は身体を失った身体障害者のようなもの、として扱われています。
反<コピー>はネオナチ扱いです。

スキャン

『移相夢/Transition Dreams(1993)』
『順列都市/Permutation City(1994)』
『誘拐/A Kidnapping(1995)』

解説

スキャンとは、人間の情報を機械で読み取って、ソフトウェア人間である<コピー>を作る作業です。
正確にスキャンを行うため、冷やして熱雑音を少なくします。
人間に不凍性二糖を注射し、摂氏0度以下に冷却するのです。
そして核磁気共鳴スペクトルからそれぞれのシナプスの重みを測定します。

スキャンにはそれなりの金がかかり、気軽に行えるものではありません。
『順列都市』では、金持ちばかりがスキャンを行い、主人公は家を売り払い借金して余命一年の母親をスキャンしようと考えました。

グレイズナー・ロボット/Gleisner robots

『移相夢/Transition Dreams(1993)』
『ディアスポラ/Diaspora(1997)』

解説

グレイズナー・ロボットとは、ソフトウェアとなった人間が宿り、外の世界と相互作用するためのロボットです。
生身の人間がソフトウェアになるというのは心理的にきついものだと感じる人が多いようです。
まるでコンピュータの中に閉じ込められたような。
そこで登場するのがこのグレイズナー・ロボットです。
ソフトウェアになっても「現実世界」を、動き回れるのなら、何も恐れることはありません。
今までどおり暮らしていけるのです。

シベリアの永久凍土の地下にあるコンピュータやダラスの地下室にある十トンのスーパーコンピュータ中で動くソフトウェア人間は、そのままでは外の世界で動き回れません。
しかし、グレイズナー・ロボットに自分をコピーすれば、地上を歩きまわったり、月面で寝そべったりすることができます。

なお、『順列都市』ではグレイズナー・ロボットではなくテレプレゼンス・ロボットという用語が使われます。

エンドーリ装置/Ndoli Device

『ぼくになることを/Learning to Be Me(1990)』
『ふたりの距離/Closer(1992)』
『ボーダー・ガード/Border Guards(1999)』

解説

エンドーリ装置は人を事実上の不死にするための機械です。
これは生きている人の心をコピーし宿すことのできるニューロコンピュータです。
脳を有機的な脳ではなくエンドーリ装置にすると、脳が老化したりはしなくなり、宇宙がどうにかならない限り、死ななくなります。

普通エンドーリ装置は頭蓋骨の中に収まり、以前と同じようにその人は肉体を操作し行動します。
見た目は全く普通の人とかわりません。
機械なのは脳だけで、身体は生身な事がほとんどです。
しかし、エンドーリ装置をロボットに移植することも可能です。

初期のエンドーリ装置は有機脳とは別に独立して存在し、有機脳を模倣するタイプでした。
生まれた時にエンドーリ装置を頭蓋骨に埋め込み、ずっと脳を模倣させます。
30代頃に有機脳を除去する<スイッチ>という作業を行い、その後その人の行動はエンドーリ装置によって制御されることになります。
これは見方によっては「自分は死に、自分そっくりの機械に身体を乗っ取られる」というホラーめいたことになり、『ぼくになることを』の主人公は悩みます。
『ふたりの距離』の主人公は「自分は最初からエンドーリ装置であり、有機脳は補助にすぎない」と、全く悩んでいませんが。

ただ、それではあんまりだと思われたのか、『ボーダー・ガード』によると、50年くらい後に、ニューロン一つ一つを少しずつ機械に置換するタイプに取って代わられました。

エンドーリ装置はナイジェリア人男性のエンドーリによって発明されました。
エンドーリ本人は<双生器/the dual>と呼んでいましたが、一般的には<宝石/the jewel>と呼ばれています。
エンドーリ自身はエンドーリ装置の恩恵を得ることが出来ず死んでしまったようですが(エンドーリ装置は生まれた時からつけていなければならない)、後世の人々はエンドーリに畏敬の念を抱いており、もし本人を目の前にすれば頭がおかしくなって支離滅裂な崇拝の言葉を並べ立てかねないようです。

インプラント

融合世界/Amalgam

『Riding the Crocodile(2005)』
『グローリー/Glory(2007)』
『白熱光/Incandescence(2008)』

天の川銀河にある様々な星の文明出身の知的ソフトウェアが集まった社会です。
融合世界の市民はあまり技術が発達していない惑星にコンタクトするのは避けなければなりません。
技術差がありすぎると不幸しか生まれないからです。
どうしてもコンタクトしたい場合は、こちらの技術を一切漏らしてはいけません。
向こうに合わせて肉体をまとい、古い技術で宇宙船を作りコンタクトするわけです。
物理理論も間違った、しかし数学的には矛盾のないものを捏造します。

肉体人

フェムトマシン

『ディアスポラ/Diaspora(1997)』
『Schild's Ladder(2002)』
『クリスタルの夜/Crystal Nights(2008)』

解説

ナノマシンがありふれたSF用語になって久しいですが、さらに小さなマシンが登場しました。
ナノマシンは分子レベルですが、フェムトマシンは原子核のレベルです。
フェムトはナノの10^-6倍です。

エキストラ

『エキストラ/The Extra(1990)』
『ふたりの距離/Closer(1992)』

解説

新しい体がほしい時のための脳移植先のクローンです。
陳腐なSFなら、ここでクローンが主人公になってオリジナルと戦うのですが、エキストラはそうはなりません。
エキストラはまともな脳を持たないように調節されています。
開発当初のエキストラでさえ、大脳皮質の多くを失っており、犬や猫にも劣ります。
エキストラに人権を与える位なら哺乳類の半分にも人権を与えなければいけません。
まあ哺乳類の半分にも人権を与えるべきだと言われれば反論は出来なくなってしまうのですが。

しかし技術が発達すると、エキストラは倫理的に文句のつけようのないレベルにまで達しました。
発生過程の生化学的信号を上手く模造し、健康な体と徹底した脳死を両立できるようになったのです。
エキストラは常に昏睡状態で、活動することはありません。
発生スピードも向上し、一年でエキストラを作ることができるようになりました。

なお、『適切な愛/Appropriate Love(1991)』でやっていることはエキストラ作成そのものです。

市民

『ディアスポラ/Diaspora(1997)』
『プランク・ダイヴ/The Planck Dive(1998)』

解説

意識を持つソフトウェアです。
ポリスと呼ばれるソフトウェア社会で暮らしています。
ソフトウェアとして生きる場合、やはり心配なのは他人に勝手に削除されたり、データを書き換えられたりしないかどうかという点です。
ポリスに住む市民達はそういうことの無いよう権利を与えられています。
一種の基本的人権ですね。

ソフトウェアなので自己改変が非常に簡単です。
外見をSNSのプロフィール欄の画像を変更するのと同じくらいの気軽さで変更したり。
自分の精神に手を加えることさえあります。

他人から書き換えられないというのはデメリットでもあります。
もし発狂して、他人に治療してもらう承認すら出来ない状態になった場合は詰みます。
そのためポリスはかなり慎重に市民を作ります。
一度意識を持ってしまうと削除できないので、意識を持つ前の市民作成段階で少しでも異常が見られれば中絶します。

市民は生身の人間よりもかなり死ににくいです。
バックアップが沢山あるので、自然災害で壊れても、別のところでバックアップが目覚めます。
市民が死ぬとしたらそれは自殺した時です。

映話

テレビ電話のことです。

光を利用して計算するコンピュータ

『ぼくになることを/Learning to Be Me(1990)』
『ルミナス/Luminous(1995)』
『暗黒整数/Dark Integers(2007)』
『プランク・ダイヴ/The Planck Dive(1998)』
『クリスタルの夜/Crystal Nights(2008)』


警官

『愛撫/The Caress(1990)』
『宇宙消失/Quarantine(1992)』

解説

社会秩序を守る正義の味方です。
当初、警官はドラッグで身体的にも精神的にも強化されていました。
身体的には子どもの頃から成長因子を注射されており、精神的には反射神経、理性、判断力を"強化"されています。
仕事が終わると"強化解除"され、普通の人間のように過ごせます。
しかしドラッグには副作用もあり、新しいテクノロジーである神経モッドに取って代わられました。
神経を直接いじることによって、完全にプライベートの自分と仕事をしている時の自分を分けることができるようになったわけです。

警官は皆P1~P6までの6つの神経モッドを装備します。

P1

警官の「生化学反応を調節」します。
アドレナリンのように抹消の血行を遮ったりします。
敵に正体不明の薬を注射された場合、その成分を分析できます。
殴られて意識を失った後、意識が戻った時に打撲症を負い、軽い脳震盪を起こしていることを教えてくれます。

P2

警官の「感覚処理能力を増強」します。
警官自身の肉眼に加え、カメラにアクセスし、それらの視界を同時に見せてくれたりします。
他の警官と視覚データを共有することも可能です。
見取り図を取り込むと、現実の光景にそれが映しだされたりします。
暗い部屋では視力を最大感度に調節してくれます。
声の発生源を特定できることもあります。

P3

警官が余計なことを考えないようにします。
「P3は気が散るのを防ぎ、集中して考えるのをたやすくし、結果として、よりすばやく判断を下せるようにする」のです。
警官が戦慄すると自動起動することもあります。
警官の質を高め、命を救うこともあります。

P3を使っている間は、P3を使うのは良いことだと考えるようになります。
ただ、P3を使うと分析力が研ぎ澄まされるので、「ああ自分は今P3に操作されてP3は良いものだと考えているのだな」と考えてしまうのですが。

身内が爆発で死んだ場合、その死が決定的なら、駆け寄り自分の身まで危険に晒したりしなくなります。
敵に捕まった場合、無駄な抵抗はしないようになります。
嘘をつく時、嘘を付いているような徴候を全く見せないようになります。
夜の虫の音が気にならなくなります。
悲哀や罪の意識や怒りを感じなくなります。

歩哨という同機能の市販品があります。

P4

警官の「体の反射能力全般と関わりをも」ちます。
爆発が起きると体を丸めて地面を転がったりしてくれます。

P5

警官の「時間おび空間的な判断力を高め」ます。
かんたんな物理シミュレーションを行って、次に何が起こるのかおおまかに予測できます。
揺れる物体の動きは計算できますが、ちょっと複雑なものは予測できません。
どのくらいまでドアを開けたら警報に引っかかるかも計算してくれます。
知覚や感覚情報を総合し分析して、現在位置や時間を教えてくれます。

P6

警官のプログラミングと通信能力を担当します。

オーストラリア

イーガンはオーストラリアに住んでいるためか、作品もオーストラリアが舞台になることが多いです。

しかしそのわりに、あんまりいい描写はされません。
人種差別主義者がいたり、「こうこうこういう良い性質はオーストラリア人特有のものだ」と傲慢にも考える人がいたり、移民を保護する仕事をしている事務所に落書きする人がいたり。
ただ、これをもって「オーストラリアはダメだ」と結論付けるのはあまり適切ではないでしょう。

ここでの「オーストラリア人」は一般的な人間の一つの例に過ぎず、おそらく読者は「オーストラリア」という言葉を自分の今住んでいる国の名前に置換して考えるべきでしょう。ある国Aが舞台となることが多ければ、ろくでもない人間もA国人になることが多いでしょう。人間とはこういうものなのです。

中国

『百光年ダイアリー/The Hundred Light-Year Diary(1992)』
『移相夢/Transition Dreams(1993)』
『ルミナス/Luminous(1995)』
『暗黒整数/Dark Integers(2007)』
『伝播/Induction(2007)』

全体主義的で隠蔽体質でアレなところもありますが、まっとうな国が予算をつぎ込まないようなことに平気で金を注ぎ込みおもしろテクノロジーを開発してくれるSF作家には便利な国です。

アレな事をして物語を展開させる役割も担っています。イーガンの作品の世界ではよく戦争します。

アラン・チューリング

『繭/Cocoon(1994)』
『順列都市/Permutation City(1994)』
『ディアスポラ/Diaspora(1997)』
『オラクル/Oracle(2000)』

20世紀の偉大な数学者です。
コンピュータや人工知能に大きな貢献をしました。
ゲイであったことでも有名で、同性愛の罪で政府に捕まりホルモンを無理やり注射された挙句自殺しました。

『繭』では同性愛者のパレードで、アラン・チューリングを模したプラスチック製の頭を被った人が行進しています。
それを見て主人公はこう思います:(だからなんだというんだ?クイア(同性愛者)の中には有名人もいる。ある有名人はクイアだった。そりゃ驚きだ!だからといって、その有名人がおまえたちのものだということになるのか?)
まあ、主人公もゲイなのですが。
そういう意味で、主人公のゲイは公平さを重んじる人だといえるでしょう。

『順列都市』ではチューリング・テストという言葉が使われています。
『順列都市』は知性の宿ったソフトウェアの話なので、機械に知性が宿っているかどうかを判定するチューリングテストという言葉が出てくるのは当然ではあるでしょう。

『ディアスポラ』ではチューリング・マシンと言う言葉が使われています。
『ディアスポラ』の『ワンの絨毯』には自己複製する、糖で出来たじゅうたんが登場します。
その絨毯が実は、チューリングマシンになっており、16次元の宇宙を計算していました。

『オラクル』ではなんと、チューリングが主人公です。
まあ正確に言えば、チューリング本人ではありません。
主人公の名前はアラン・チューリングではなくロバート・ストーニイです。
しかし舞台となっているのは私たちの宇宙に似た別の宇宙であり、主人公は子供の頃好きだった年上の友人を失ったイギリス在住のゲイの数学者で、思考する機械について論じていることを考えれば、チューリングが主人公であると言ってもまあそこまで間違ってはいないでしょう。
つまり別の宇宙のアラン・チューリングが主人公なのです。

主人公は別の宇宙からやってきたロボットに、アラン・チューリングの話を聞かされ、ショックを受けます。
別宇宙の自分が薬物で化学的に去勢されたということで。
しかし結局最後はハッピーエンドになります。
この主人公は科学の発展を大幅に加速させ、意識を持ったソフトウェア以上の技術を手中にしました。
もしかすると別宇宙のチューリングは永遠の命を得ることが出来たのかもしれません。

リチャード・ドーキンス

『道徳的ウイルス学者(1990)』
『ディアスポラ/Diaspora(1997)』
『プランク・ダイヴ/The Planck Dive(1998)』

有名なイギリスの進化生物学者です。『利己的な遺伝子/The Selfish Gene(1976)』で有名になりました。最近は無神論を強く支持しており、『神は妄想である/The God Delusion(2006)』などの書籍を出しています。進化と無神論の文脈で用語が引用されます。

道徳的ウイルス学者

『道徳的ウイルス学者』では次のような文章が出てきます。

そして不信心な進化論者たちのだれひとりとして、それを偶然という"ブラインド・ウォッチメイカー"の産物だと考えるわけにはいかないだろう

このブラインド・ウォッチメイカーと言うのは明らかにドーキンスの三番目の著作『盲目の時計職人/The Blind watchmaker(1986)』を意識しています。自然淘汰により生まれた形質はしばしば人間の、盲目でないデザイナーから見れば不合理な点があるため、天然のものと比べてあまりに出来すぎたウイルスは進化以外の何者かが創造したと考えられるわけです。

ディアスポラ、プランク・ダイヴ

ディアスポラとプランク・ダイヴにはミームという単語が登場しますが、これはドーキンスの造語です。ミームとは文化的な自己複製する情報のパターンです。ディアスポラではイノシロウが何かの缶を焼き払いますが、それはそこに含まれたミームのバイオハザードを警戒したからです。

ダニエル・C・デネット

『決断者/Mister Volition(1995)』
『ディアスポラ/Diaspora(1997)』

デネットは哲学者で、進化生物学や心の哲学がホームグラウンドです。『決断者』ギミックと『ディアスポラ』の『孤児発生』はデネットの『解明される意識』にインスパイアされたものだとイーガンさんのあとがきで述べられています。

また、イーガンの決定論と自由意志の関係に関する考えは、デネットのそれと極めて似ています。決定論と自由意志は両立しないものだと考える人は多いです。「決定論だと予め全てが決定しているのだからほんとうの自由はない。自由意志のためには量子論的な何とかが必要なのだ」という理由です。

しかし、『順列都市』や『ひとりっ子』やらの描写からして、イーガンは決定論と自由意志が両立すると考えています。『順列都市』では登場人物たちは決定論的な宇宙で自分のコピーを走らせるのですが、もし決定論的宇宙で自由意志が存在できないのなら、これは意味がない行動です。

これはデネットの自由意志の考え方と同じで、デネットは量子論と自由意志を結びつける考え方を批判しています。

マックス・テグマーク

『ひとりっ子/Singleton (2002)』
『クロックワーク・ロケット/The Clockwork Rocket (2011)』

言わずと知れた数学的宇宙仮説(すべての数式で表せる宇宙は実在する!)の提唱者ですが、イーガン作品に名前が出たのは物理法則が違う別宇宙ネタよりも量子脳理論の否定が先です。

『ひとりっ子』では量子脳理論嫌いの主人公がペンローズを否定しているテグマークの名前を直接あげて持ち上げています。

一方テグマーク氏は『順列都市』が好きらしく、Scientific american誌の記事"Parallel Universes"で『順列都市』の名前を出しています。『順列都市』の塵理論はあきらかに数学的宇宙仮説の別の宇宙に自分が移動する方法ですから、これは納得できる話です。

拍手[9回]

PR