忍者ブログ

Memeplexes

プログラミング、3DCGとその他いろいろについて

”かわいい女の子と熱いストーブ”ジョークは細菌の走化性をモデリングしている

アインシュタインがかつて言ったとされる(しかし実際は言っていない)ジョークに「可愛い女の子と座る2時間は一分だが、熱いストーブに座る一分は2時間だ。これが相対性だ」というのがあります。これは偶然にも、細菌の走化性(エサの濃度が高い方へ泳いでいく)のモデルになっています。


細菌の走化性

細菌はエサの濃度が高い方へ泳いでいきます。しかし細菌には目はありませんし、高度な神経回路もありません。わかるのは現在地のエサの濃度だけです。遠くにあるエサを見たりはできないのです。ではどうやってエサが多い方向がわかるのでしょうか?

細菌が取っている方法は、とてもシンプルなものです。

はじめ、細菌はランダムに泳ぐ方向を決めます。そしてその方向に泳ぐ間、自分の周りのエサが少なくなっていたら、ランダムに方向転換します。一方、泳ぐ間に自分の周りのエサが多くなっていたら、その方向にしばらく泳ぎ続けます。これだけで、時には間違った方向へ進むものの、自然とエサの多い方へ泳ぐことになります。

ちょうど、匂いを嗅ぎ回るようなものです。匂いが強くなっていたらその方向に進み続け、匂いが弱くなったら方向転換するのです。

現状に飽きるまでの時間

ところでこの泳ぎ方は、「飽き」の原始的なバージョンだとみなすこともできそうです。つまり細菌は、大人から習い事を強要された子供のように、同じ行動をある時間以上続けることが出来ないのですが、その限界時間が「良い方向に世界が変化している」と長くなるのです。

良い変化がないときにはすぐに現在の行動に「飽き」て、ランダムに選ばれた別の行動を始めます。そして良い変化が起きると「飽き」るまでの時間が長くなります。「飽き」るという言葉にはネガティブな印象があるかもしれませんが、「飽き」を利用することによって最適な状態へ移行することができるのです。

私が同じような話を延々と続けていたら聴衆はいなくなるでしょうが、それは人間もこの行動原理を採用しているからかもしれません。

心的時間

ではアインシュタインが言ったとされる(実際は言っていない)「可愛い女の子と座る2時間は一分だが、熱いストーブに座る一分は2時間だ。これが相対性だ」というジョークとの関連を考えてみましょう。

このジョークは、「世界が良くなっている時、時間の流れが早くなる」ということで、細菌の話とは違うことを言っているように聞こえます。しかしここで言う「時間の流れが早くなる」というのは言い換えると「主観的な時間が遅くなっている」ということです。もしそうなら、飽きるまでの時間も遅くなるでしょう。結局、細菌の泳ぎと同じことを言っているのです!

おそらく我々の心は体内時計のような時計から成り立っており、時計が一回転すると、ランダムに行動を変えるようになっています。ところがその時計の針は、良い変化を体験していると動きがゆっくりになるのです。変化がなかったり、悪い変化をしている場合、針は素早く回転するでしょう。

時計の針は心理的な時間を司っています。つまり、針がゆっくり動く時、周りの世界は早く動いているように思え、針が素早く動く時、その逆になるのです。これが「女の子とストーブ」ジョークの本質なのです。

時計としてのニューロン

この原理はニューロンレベルでも成り立ちそうです。以前、ニューロンの活動を回転とみなすシミュレーションを作りました。

振動としてのニューロンのスパイク

このシミュレーションはニューロンの興奮を、時計の一回転とみなします。ニューロンが興奮するとそれが筋肉を動かしたり別のニューロンを興奮させたりと行動の変化につながりますから、ここでの話と辻褄は合います。熱いやかんを触って手を引っ込めるのは、熱い状態には素早く飽きるからです。

…本当にそうでしょうか?美味しいカレーライスを目の前にしてガツガツ食べる子供を思い浮かべてみましょう。たぶん、その子供はニューロンがかなり興奮しています。しかしここでは、興奮を「飽きて別の行動に移る」と解釈しているので、「美味しいカレーをガツガツ食べながら飽きている」という理解しがたい状態になっています。これは矛盾ではないでしょうか?

おそらく、下位レベルの飽きと上位レベルの飽きは必ずしも一致しないのだと思われます(「ゼネラルモーターズにとって良いことは国家にとっても良いことだ」)。カレーを口に運ぶ一連の動きは、各々の動きに急速に飽き続けていると言えます。スプーンをカレーに突っ込むのに飽き、スプーンを口に持ってくるのに飽き、カレーを咀嚼するのに飽き、スプーンをカレーに突っ込むのに飽き…。お腹いっぱいでもうカレーを食べれないというのは、スプーンをカレーに突っ込んだ状態に飽きないということなのです。

まとめ

細菌レベルの生物も含め、私達の心は時計で出来ていて、時計が一回転すると飽きてランダムに別の行動を始めます。時計が回転する速度は現状が良くなっているかどうかに依存していて、良くなっているのならノロノロと回転しますが、悪くなっているのなら素早く回転します。これが楽しいときに時間があっという間に過ぎ去る理由です。心がゆっくりと動いているので、逆に世界は素早く動くように感じられるのです。

拍手[0回]

PR