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プログラミング、3DCGとその他いろいろについて

かんたん量子力学 調和振動子(バネつきおもり)

今までのところ、直進する粒子や原子核の周りを回る電子を量子力学で見てきました。ではバネの付いたおもりのような行ったり来たりする運動(調和振動子)は量子力学ではどう表されるのでしょう?


なぜバネについて考えるのか?

バネ付きおもりの波動関数を見る前に、なぜ量子力学のような難しそうな話をしているときに、バネ付きおもりという子供のおもちゃのようなものを考えなければいけないのかをはっきりさせておきましょう。

それは、現実世界にはバネのような振動する動きをするものがたくさんあるからです。

たとえば分子は原子を引き離そうとすると元に戻ろうとし、原子同士を近づけすぎると反発します。これはあたかも原子の間にバネがあるかのようです(上の図の上。水素分子は2つの水素原子がバネでつながったようなものとみなせます。ただし、本当に金属でできたバネがあるわけではなく、あたかもバネのような性質を持っているというだけです)。

また、量子力学を発展させた「場の量子論」では私達の周りの空間はバネのついたおもりのようなもの――やはり本物のバネやおもりではなく、そのような性質を持った数学的構造――で満たされており、粒子はそのおもりの動いている波のようなパターンで表されます(上の図の下)。粒子の動きは、その波が動いていく様子で表されるわけです。私達の身体は粒子でできていますから、私達もバネおもりの海を動くさざ波なのです。

調和振動子の波動関数

バネ付きおもり(調和振動子)の波動関数を計算するのはかんたんではありません。しかし結果だけなら誰にでもかんたんに予想できます。おもりの動きに注目するのです。

バネ付きおもりは次の図のように両端でおそく、中心で速いです:

また、物体の速度は次の図のように、波動関数の波長(山と山の間の間隔)によって表されるのでした:

ということは、バネ付きおもりの波動関数は次のように、両端で波長が長く、中心で短くなるはずです:

これが調和振動子の波動関数です。両端の山が高くなっているのは、両端でおもりがとどまる時間が長く、結果としてそこの存在確率が高くなるからです。

かんたんに思えますが、じっさいに計算してこの曲線を出そうとすると骨が折れます。ただ、このページでは直感的に理解することを目標にしていますからね。

波動関数で遊ぼう

ではこれを色んな角度から見てみましょう。

位相の表示方法
おもりのエネルギー = √(バネの強さ / おもりの質量)×( + 1 / 2)

解説

これは調和振動子の波動関数のシミュレーションです。表示されているバネの付いた赤い球体は私達の日常のスケールでのバネ付きおもりです。その下の青い物体はそれをミクロのスケールにした場合の波動関数です。上は量子力学より前の物理学、下は量子力学以降の物理学と考えることができます。

エネルギー

「おもりのエネルギー」のところの入力欄の数字を変えてみてください。波動関数が広がり、くびれが増えます。これは、エネルギーが増えるとおもりはより大きく振動するようになり、より広い範囲に存在する可能性ができるからです。

電子雲と似ている

これは振動するおもりのシミュレーションですが、電子雲と似たところがいくつもあります。

エネルギーは飛び飛びにしか変化させることができません。これは、原子核の周りを回る電子のときと同じように、中途半端な運動は波が自分自身を打ち消し存在できないからです。じっさい、振動というのは回転を一方向から見たものなので、似ていても不思議はないわけです。

振動するおもりのシミュレーションなのに、おもりの存在確率(青いかたまり)が全く動いていないことを不思議に思うかもしれません。これは、ハイゼンベルクの不確定性原理で、位置と速度を同時に正確に知ることはできないからです。いま、速度がある程度わかってしまったので、位置はある程度以上はっきりさせることはできません。奇妙な話ですが、量子力学では、無理やり言葉にするなら「動いているのに位置は変わらない」というような状態がありえるのです。特に今回のようにエネルギーが完璧にわかっている場合、動いているのに存在確率は全く変化しなくなります。青いかたまりは微動だにしませんが、これが量子力学で振動している状態を表す波動関数なのです。

これは電子雲のときと同じです。高校の教科書には電子は原子核の周りを回っているように描かれていますが、もし電子が本当に回っているのなら原子と原子をつなぐ腕だって回転しているはずで、分子はめちゃくちゃに変形するはずです。しかしじっさいにはそうではありません。電子は「動いているのに位置は変わらない」というような状態なので、結合する腕の位置はそう変化しないのです。

止まれない

おもりのエネルギーは0にすることができません。もしそんなことをすると、おもりの速度は0で、位置はちょうど中心だということがわかってしまうからです。ハイゼンベルクの不確定性原理により、驚くべきことにミクロの世界では調和振動子は止まることができないのです(これは電子が原子核に墜落しないというのと似ています。墜落してしまうと原子核の位置で止まっている事になってしまうからです)。

このエネルギーの下限のことを零点エネルギーといいます。このエネルギーは絶対零度であったとしても決してなくなることはありません。つまり原子は絶対零度でも完全に静止するわけではなく、ほんのわずかに振動し続けるのです。

あるはずのない場所にも存在確率がある

上の古典的なおもり付きバネと下の波動関数の横方向の広がり具合を比べてみてください。波動関数のほうがすこし余計に広がっています。これが何を意味するかと言うと、エネルギー的に本来ありえないはずの場所でおもりが見つかる可能性があるということです。

そもそも、どうしておもりの横方向に制限があるかと言うと、バネを本来の長さより伸ばしたり縮めたりするのにはエネルギーが必要だからです。おもりが最初にもっている運動エネルギー以上に伸ばしたり縮めたりはできません。なのに、波動関数の方ではその領域を超えて存在確率が広がっています。量子力学では、少しくらいならありえないはずの場所にもいけるのです。

これは永久機関に使えると思うかもしれませんが、残念ながらそんなことはなく、現実にはこれはコンピュータを作る上での障害となっています。コンピュータの部品をあまりに小さくすると、情報を記録するのに使っていた電子が壁から染み出して逃げてしまうのです。コンピュータのトランジスタ数はねずみ算式に増えていくというありがたいムーアの法則は、このせいで限界が来るだろうと考えられています。「あるはずのない場所にある」というのは、言い換えると「あるべき場所にない」ということであり、それはコンピュータの故障を意味するのです。

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