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プログラミング、3DCGとその他いろいろについて

タイムトラベル、<シラードのエンジン>、おきあがりこぼし

タイムトラベル、<シラードのエンジン>、おきあがりこぼしには共通点があります。最初と最後が同じ状態になるのです。


タイムトラベル

タイムマシンによって未来から情報が送られてきたとします。すると、あなたはその情報を必ず過去へ送らなければいけなくなります。そして、その2つの情報は完全に等しいのです。もしあなたが未来からやってきた数字に+1してしまったとしたら、そのあとかならず-1しなくてはいけません。どんな変更を加えても、その変更は必ず後で打ち消さなければいけないのです。未来からの情報のたどる可能性を図にすると、次のように広がってもとに戻ります。

もしあなたが反骨心を発揮して、+1したあと-1しないようにしたとしても無駄です。何らかの奇跡(!)が起きて必ず-1してしまうことになるのです。未来からやってきたものは既に決定された運命なのです!途中の経路には自由が許されますが、最終的な結果は完全に不可侵なのです。

<シラードのエンジン>

<シラードのエンジン>は永久機関の思考実験です。実際に作っても生み出す以上のエネルギーを消費してしまうため本物の永久機関とは呼べませんが、考えるだけなら楽しいです。<シラードのエンジン>は、熱――ランダムな分子の運動――を人が自由に使えるエネルギーに変換します。分子を観測して、その移動する先におもりの付いたピストンを置くのです。そうすれば、分子の衝撃によっておもりは上に上がり、おもりにエネルギーは蓄えられます。あなたはそのおもりを発電機に繋いで発電でも小麦の脱穀でも好きな仕事をさせることができます。

ここで重要なのは、<シラードのエンジン>が分子を観測するということです。最初、分子の状態がわからないため、<シラードのエンジン>の可能性を図に描くと、2つに分裂します(下の図)。熱振動をする分子の状態は予測不能なランダムであるため、それを観測した<シラードのエンジン>のメモリの状態も、外部の人から見ると、予測不可能になってしまうのです。これはちょうど、自分の子供が怪しげな人物と話しているのを遠目で見ている親の気分のようなものです。一体何を吹き込まれたかわかったものではありません。あなたは子供の脳の状態が予測不可能になってしまうのです。あなたの子供は、単に道を聞かれただけの子供と、犯罪への誘いを受けた子供に分裂しているのです。

<シラードのエンジン>の可能性は分裂したままではありません。あなたは<シラードのエンジン>からエネルギーを安定供給したいので、この装置の状態を(エネルギーを蓄えたおもり以外は)すべてリセットします。最初と同じ状態にして何度も使うためです。すると面白いことに、タイムトラベルの場合と同様、「分岐して収束する」図になります。未知のものからエネルギーを得るために情報を得ると分岐しますが、装置をもう一度使うためには可能性の枝が合流しなければならないのです。ちなみに、この合流こそが<シラードのエンジン>が本物の永久機関でない理由です。この宇宙では物理法則により、可能性が合流したときにエネルギーを失うことが宿命付けられており、その量はおもりに蓄えたエネルギーより大きいのです。<シラードのエンジン>をじっさいに作ったとしても、それは外部からのエネルギーを無駄に消費するガラクタでしかありません。

おきあがりこぼし

おきあがりこぼしは赤ちゃんのためのおもちゃで、指でつついて傾けても勝手に元の姿勢に戻ります。そうなるのはおきあがりこぼしが生きているからではなく(厳密に言えば、生命の定義次第では生きていると言える可能性もあるかもしれませんが、ここでの説明はもっと単純なものです)、おきあがりこぼしの内部におもりが仕込んであり、傾くとおもりが上がり、重力に引かれて元の姿勢に戻ろうとするからです。

次の図は、おきあがりこぼしのおもりのポテンシャルエネルギーを表しています。傾いた状態はエネルギーが大きく不安定で、まっすぐな状態は安定しているのです。タイムトラベルで収束を起こしていたのは得体の知れない奇跡でしたが、おきあがりこぼしで収束を起こしているのは何の変哲もないおもりによるエネルギーです。ポテンシャルエネルギーとは力を出す潜在能力のことですから、それが収束する力になっているというのは納得できます。

わたしがおきあがりこぼしに注目しているのは、これもやはり「分岐して収束する」からです。あかちゃんがおきあがりこぼしを傾ける方法はたくさんあり、それによって状態は分裂しますが、おきあがりこぼしの機能により元の姿勢に戻るのです。

これは何を意味するのか?

タイムトラベルは外部の何者かがループに手を加える時に分裂します。<シラードのエンジン>は、ランダムな分子運動を観測するときに分裂します。そしておきあがりこぼしでは、赤ちゃんに触れられるときに分裂します。どれも、未知の何かがそのシステムの状態を変えようとしたときに分裂します。未知の影響をうけたら、自分の未来の可能性は分岐するのです。しかし3者とも未知と遭遇しながら最後は自分自身を取り戻すハリウッド映画の主人公のような強さを持っています!

一見あまり関係ないように見える3つに共通点があるということはどういうことでしょう?これは何か隠された一般法則の存在を示唆しているのでしょうか?そうかもしれませんが、実はこの「分岐して収束する」というのは大した条件ではないというのもたしかです。世の中のほとんどありとあらゆる機械はこのような性質を持っています。機械というのは連続して稼働させる必要があり、それはすなわち、一度使っても元の状態に戻りまた使えるということを意味するからです。

たとえば掃除機はどんなものも吸い込むことができます。まあダンボールの箱を吸い込むのは無理ですが、ホコリであっても、紙の小さな切れ端であっても、虫の死骸であっても吸い込めます。つまり掃除機の中に詰まっているゴミにはたくさんの可能性があり、掃除機を使うたびに可能性は分岐しているといえます。そしてゴミが溜まりすぎるとそれを取り出してまた新しいパックをセットします――これは最初の状態へ戻るということを意味します。掃除機も「分岐して収束」します。だからこそ、掃除機は何度も使えるのです。ゴミがたまったからと言って掃除機ごと新しいものに買い換える必要はありません。

わたしたちの身の回りにある機械は、ほとんどすべて何らかの形で「分岐して収束」しています。自分以外の未知のものと相互作用しますが、最後は元の状態に戻るのです。例外と呼べるのは、データをハードディスクにずっと溜め込み続ける事のできるコンピュータくらいですが、それだってネットからデータをダウンロードしては廃棄していますから(ユーザーの脳の中に入ったので、コンピュータは情報を蓄える必要が無いのです)、そこでは「分岐して収束」しているのです。機械をずっと使い続けるには、状態のリセットが必要です。未知の何かと相互作用したとしても、状態をもとに戻せばまたいつものように使えるのです。

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