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プログラミング、3DCGとその他いろいろについて

パン生地のこね、大腸菌の泳ぎ、国家元首の交代、自然淘汰、タイムトラベル

パン生地のこね、大腸菌の泳ぎ、国家元首の交代、自然淘汰、タイムトラベルの関係性について考察します。


パン屋変換の復習

前回パン屋変換のシミュレーションを作りました。パン屋変換はバタフライ効果を最も簡単に理解させてくれます。つまり、変換を行うたび、小数の各桁が大きい方にずれていき、一番大きい桁の数字は外れるのです。そのため何度も変換を行うと、とても小さな桁にいたはずの数字が、一番大きな桁にやってきます。蝶の羽ばたきがトルネードを引き起こすのです。

ただし、小さな影響が大きくなり続けるということはなく、一番大きな桁にやってくると別の小数にうつり、今度は小さくなり続けます。驕れる者は久しからずです。

(私は自分がパン屋変換の数字だったらと思うと気が滅入ります。はじめは自分の重要さが10倍になり続けて楽しいのですが、最高潮に達すると衰退が始まるのです。なんとか工夫して最高潮が来るのを先へ先へと引き伸ばしたいと思うでしょう。たぶん、技術的特異点というのはそういうことです――レイ・カーツワイルによると人間を超えるソフトウェアを作るのが最高潮ということではなく、それを使って全宇宙を目覚めさせるのが最高潮なのです。そしてそれは何百億年も未来の話でしょう。それまではずっと成長を続けられるのです。地球上のかつての巨大国家のように、繁栄の陰ですでに衰退が始まっていたというようなことからは無縁でいられるのです。)

大腸菌の泳ぎ

パン屋変換は、小さな世界の数字を大きく拡大し、ほんの少しのランダムなノイズが大きな役割を果たすようになります。しかしそこに神秘的な何かを感じ取ってはいけません。ランダムはあくまでもランダムであり、サイコロを転がすのと変わらないからです。サイコロの目自体に意思など無いはずです。

しかし、ランダムなものを利用して意思を作り出すことは出来ます。以前述べたように大腸菌の泳ぎがそれで、大腸菌はランダムな情報を餌をたくさん食べるのに利用します。つまり、大腸菌は常にランダムに泳ぐ方向を決めるのですが(これ自体は繊毛がめちゃくちゃに絡み合うことによって自然とめちゃくちゃな方向が選ばれるという意思のかけらもない現象です)、以前よりエサが多くなっていたら、その方向に進む時間を少し伸ばすのです。大腸菌はこうすることで、ときには間違った方向へ進みつつ、長期的にはたくさんのエサにありつけます。でたらめに行動してそれが進歩につながったら、それを大事に長持ちさせるのが成功の秘訣です。

パン屋変換を改変すると大腸菌と同じことができそうです。パン屋変換をするプログラムをロボットにつなぎ、パン屋変換の一番大きい桁の数字をもとにロボットになんらかの行動をさせます。それはもちろん、ミクロの世界からやってきたランダムな情報に過ぎないのでロボットはランダムな行動をするだけなのですが、それが進歩につながったら、次のパン屋変換をするまでの時間を少し伸ばすのです。こうすることで、そのロボットは時には間違った行動をするものの、長期的には進歩し続けるでしょう。

国家元首の交代

こう考えると、国家元首の交代も似たようなものなのかもしれません。くじ引きで国家元首を選び続ける国があるとします。そんなことをしていたら国がめちゃくちゃになると思うかもしれませんが、もし進歩をもたらす国家元首を引き当てたら、次のくじ引きまでの時間を伸ばすのです。こうすれば長期的には国は進歩しそうです。現実の政治システムがくじ引き程度の信頼性しか無いと考えれば、失敗した国家元首はすぐ辞めるので、この考え方はだいたい正しいでしょう。

実際、パン屋変換の数字の動きは政治っぽいところがあります。つまり上へと行こうとする順番待ちがあり、上へたどり着いたら次に交代して後は下り坂です。政治とはバイアスのかかったパン屋変換なのかもしれません。

自然淘汰

ランダムなものにバイアスをかけ意思を作り出すプロセスとして最も有名なものの一つがダーウィンの自然淘汰です。自然淘汰にパン屋変換っぽいところはあるでしょうか?

DNAという目に見えないほど小さな物質が、髪の毛の色や背の高さに影響を与えているという意味では、パン屋変換っぽいと言えます。また、新たに生まれたランダムな突然変異が有用なものであった場合、自然選択によって再生産されるというのがすでに述べたバイアスのかかったパン屋変換っぽさがあります。もしかすると自然淘汰とは、パン屋変換で良い結果が出たら、その数字をものすごく小さい桁に書き込み将来も同じ結果が出るようにするということなのかもしれません。

タイムトラベル

タイムトラベルの計算は巡回セールスパーソン問題やベイズと関連があり、それらの議論はタイムトラベルのたとえ話に翻訳できます。私は退屈なメールの迷惑メール率計算の話をするよりも自分のおじいさんを殺したらどうなるかというような話のほうが好きなので、ここではタイムトラベルの話をします。

タイムトラベルのパン屋変換っぽさとは何でしょうか?それは、予測不可能な何かが現れ、それが将来現実になる何かを表しているというところです。パン屋変換ではちっぽけなランダムなノイズが未来に大きな影響を与えます。タイムトラベルでは未来から「おまえは死ぬ」というメッセージが送られてきたら、そのメッセージの実体はコンピュータ中の電子の状態というちっぽけなものでしかないにも関わらず、確実にあなたの死を引き起こすのです!!まあ電子が死を引き起こすと言う表現の正当性には議論の余地がありそうですが(*)、起きている現象の要点を数式で表せば、たぶん似たような物が出てくるのではないでしょうか?

(*)ニュートン力学をもとにタイムトラベルを考えると、「電子が死を引き起こす」というのは間違ってはいません。ニュートン力学にタイムトラベルを組み合わせると、未来からやってくる情報によって、(ニュートン力学自体は決定論的であるにも関わらず)非決定論的になることが物理学者キップ・ソーンらによって明らかにされています。「お前は死ぬ」と「お前は生きている」の2つのメッセージのいずれかが送られてくる場合(それらは冗談でないものとします)、「お前は死ぬ」メッセージがやってくると、あなたは決定論的ルールに従って100%死に、「お前は生きている」がやってくるとあなたは100%死にません。これはメッセージ自体が生き死にを引き起こしていると言えなくもありません。

まとめ

パン屋変換は小さなものが一時的に大きな影響力を持つようになるプロセスです。このようなプロセスは、大腸菌の泳ぎ、国家元首の交代、自然淘汰、タイムトラベルに見られます。

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