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プログラミング、3DCGとその他いろいろについて

逆再生動画でびっくりすることがよく起きる理由

逆再生動画は驚きの宝庫です。割れた花瓶は再生し、何の前触れもなく地面のボールは空中に飛び上がります。しかしなぜ驚き現象が起きるのでしょう?逆再生動画の中ではエントロピーは減少していますが、エントロピーとは自分の知らない情報なので、逆再生動画の中では驚きがなくなってもおかしくないのではないでしょうか?しかし現実の逆再生動画では驚くべきことばかり起きます。このパラドックスはどうやって解けばいいのでしょう?


水蒸気と氷のエントロピー

では具体例でこの問題を考えましょう。氷をすべて蒸発させるとエントロピーは高くなります。氷が水蒸気になると、個々の水分子がばらばらになり、もはやどこにあるのかわからないからです(次の2つの図。最初の図は分子が整列した氷で、次の図は水蒸気。水蒸気の水分子はランダムに並んでいます)。それらの位置を記録するには水分子の数だけメモしなくてはいけません(「水分子1の位置は~~。水分子2の位置は~~。水分子3の位置は~~。……水分子100の位置は~~」)。氷なら、氷の位置とサイズを記録しておけば、それぞれの分子の位置は言い当てることができるのです(「水分子が10×10に整列している。左上の座標はこれこれの位置」とメモするだけで位置情報は完全に記録できます)。メモが長ければ長いほどエントロピーは大きいといえます。

逆再生と情報量

時間逆転するとは、この例で言うと水蒸気を氷にするということです。水分子の位置を記録したメモは短くなります。しかしそうすると変です。メモが短くなるということは情報量が少なくなったということですが、情報量とはそれを知らされたときの驚きです(犬が人に噛み付いても情報量は小さく、人が犬に噛み付くと情報量は大きいのです)。時間を逆転すると情報が少なくなるため、驚きも小さくなりそうです。ではじっさいに逆再生動画は驚きが小さいのでしょうか?明らかにそんなことはありません!逆再生動画は驚きの連続です。このパラドックスはどう解けばいいのでしょうか?

見える情報と見えない情報

ポイントは、エントロピーとは、見えない情報だという点です。逆再生動画では見えない情報が減っています。理由は2つ考えられ、①見えないところで勝手に情報が減ったか、②見えない情報が見える情報に変わったかです。ここでは②が鍵です。逆再生動画では見えないものが見えるようになるため私たちはおどろくのです。見えないものにおどろく人はいません。原子におどろく経験をした原始人は存在しないのです。

氷と水蒸気の例に戻りましょう。氷のサイズと具現化位置を決めるのは水蒸気のときの水分子の位置と速度ですが、それは見えない情報です――水分子は小さすぎて私たちには見えないからです。私達が見るのは一見空っぽの空間です(実際には水蒸気で満たされています)。しかしひとたび氷ができると、それらの情報は見えるようになり、驚きになるのです。この時、全体の水分子の情報量は減っています。しかし、私達に見える情報量は、むしろ増えているのです。

では逆再生するとメモの内容が少なくなるのはどう考えるべきなのでしょう?実は氷についてメモした時はわたしたちに見える情報を書いており、水蒸気の水分子についてメモした時は、わたしたちが普段は見えるはずのない情報を書いていたのです。本当なら、メモの書き方を変えなければいけません。メモとは、わたしたちに見える情報を書き込むものなのです。

もし私達が日常的にするように、紙に私達が見える情報だけを書いたとしたらどうなるでしょう?そうすると、氷のときにはきちんとメモできるでしょうが、水蒸気のときには何も書けないでしょう。これは水蒸気のエントロピーが大きいということを意味します。目に見える情報から予測できない情報がエントロピーなので、水蒸気のほうがエントロピーは大きく、氷のエントロピーは小さいのです。氷が水蒸気になるプロセスを逆再生すると空白の紙に書くべき内容(目に見える情報)が現れ、私たちはおどろくというわけです。迷信深い人なら、神のお告げだと言うかもしれません!

最初の疑問に戻ります。「逆再生動画の中ではエントロピーは減少していますが、エントロピーとは自分の知らない情報なので、逆再生動画の中では驚きがなくなってもおかしくないのではないでしょうか?」この疑問の答えは、「自分の知らない情報はたしかになくなるが、それは驚くべき出来事と出会い未知のものが既知になることによって無くなるのだ」なのです!これは結局、逆再生など関係なく私達がニュースを見るときにしていることと同じですね。

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