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プログラミング、3DCGとその他いろいろについて
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これまでのシミュレーションには、粒子が一つしかありませんでした。ここでは、2つの粒子の波動関数をシミュレートします。
これまでやってきたシミュレーションは、すべて粒子を一つしかもっていませんでした。さいしょのシュレディンガー方程式のシミュレーションは、上の図のように、1次元空間を動く1つの粒子でした。電子雲は電子と原子核の2つと言えそうですが、じっさいには原子核はあまりに重いため――ちょうどりんごの落ちる軌道を計算するときに地球の動きは考えないのと同じように――動かないものと考えて計算した結果でしたから、実質的に動くものは1つの粒子だけだったのです。調和振動子はバネとおもりの2つと考えられそうですが、じっさいには変化する数字はおもりの位置だけなので(おもりの位置からバネの伸びぐあいはすぐわかります)、実質的に一つのもののシミュレーションです。
今回は違います。今回は、次の図のように、2つの粒子がビリヤードボールのようにぶつかりあう様子のシミュレーションです:
ビリヤードのようなものなので、2つの粒子が重なるのは無しです(少しでも重なると、反発して逆方向に動き始めるとします)。
「重なりは禁止」ルールを表にすると次のようになります:
これはたてと横の広がりを持った2次元シートですが、おもしろいことに、2粒子の波動関数はこの2次元空間上を動くのです。つまり今回の1次元空間の2粒子シミュレーションは、以前の2次元空間の1粒子シミュレーションと見た目はほとんど同じです(じっさい、プログラムのほとんどを再利用できました。)
これは以前の2次元の1粒子の波動関数のシミュレーションをもとに作った、1次元の2粒子シミュレーションです。見た目は似ていますが、以前のものと違って、ななめの線があり、そこに波はありません。どうして波のない領域があるのでしょう?これは、前述の「2つのビリヤードボールは重なり合わない」というルールを意味しています。前述のルール表のように、重なり合った状態は斜めの線になっているのですが、その状態の確率は0なので、そこに波はないのです。
※ところで、このシミュレーションの斜め線には、わざと左下に穴を一つだけ開けてあります。どうしてそんなことをしたかというと、こうすればシュレディンガーの猫のような宇宙の2分岐を表現できるからです。不自然な穴の開け方ではありますが、結果は自然になったというわけです。
このシミュレーションは2粒子という単純なものですが、いくつか重要なことにつながっています。
一つは、粒子を増やすと、計算がものすごく増えるということです。1次元空間中の2粒子が2次元空間中の1粒子の波の計算と似ているということは、個数が増えるたびにシミュレーション空間の次元が増え、必要な計算量が指数関数的にが増えます。今回のシミュレーションだと、一つ粒子を増やすだけで計算は70倍となります。1粒子なら70ですんだ計算が、2粒子だと70×70、3粒子だと70×70×70、5粒子で10億を超えます(この70という数字はこのシミュレーションに特有なもので、2だったり10だったりなんでもありえますが、いずれもねずみ算式の増え方をすることにかわりありません)。
これは恐ろしい話で、これが原因となり、普通のコンピュータで複雑な量子力学的現象をシミュレートするのは事実上不可能です。たくさんの原子が関わっていたら、必要な計算量が多くなりすぎます。
ところがこれは逆手に取ることが可能です。つまり、これらの粒子をコンピュータの部品として使用すれば、計算能力がねずみ算式に増えていくのです(実際には制約があり、ねずみ算よりやや少ないです)。これが量子コンピュータというやつで、これをつかうと複雑な量子力学的現象を効率よく計算できるわけです。
このシミュレーションで量子力学の多世界解釈を理解することもできます。このシミュレーションは「1次元の箱の中で2つの粒子がぶつかりあう」ものですが、見方を変えると「2粒子しかない1次元の宇宙」でもあります。宇宙の簡易ミニチュアなのです。そんな単純な宇宙でも、多世界解釈を理解する役には立ちます。
粒子の片方がもし意識を持っていたとしたらと考えてください(下図の顔マーク)。そうすると、その粒子から見ると、相手の粒子は自分の左か右にいることになります。そしてそれらは同時に実現するのです。この表の中には、もう片方の粒子が左にある状態も右にある状態も描かれていますが、それが2種類のたくさんの宇宙が存在することを意味しているのです。
これが多世界解釈です。よく、多世界解釈は「宇宙が分岐する」と表現されることがありますが、ある意味では分岐する以前からすべての宇宙は既に(この表のような形で)存在していて、波動関数はそれに息を吹き込むだけだともいえます。
これで「相互作用によって宇宙が分岐する」というのも説明できます。この灰色のブロックで描かれた斜めの線は、観察者と粒子の相互作用(重なると反発する)を表していますが、まさにこの灰色ブロックよって表が2つの独立した世界に分けられているからです。
2つの粒子がビリヤードボールのように衝突を繰り返す宇宙は、斜めの線が入った2次元の波動関数でシミュレートできます。
量子コンピュータが強力なのは、粒子数を増やすほど次元の数が増え、できる計算がねずみ算式に増えるからです。
多世界解釈は、斜めの線によって世界が分け隔てられているのだと解釈できます。